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2010年12月号
江戸箒のある暮らし
一昔前は掃除といえば箒でしたが、最近は掃除機が主流でしょうか。
そんななか、今でも身近な掃除用具として
サッと取り出せて気軽に使える箒は便利なものです。
今回ご紹介するのは、
江戸時代から変わらぬ形で受け継がれている職人さんの江戸箒。
一本一本丁寧に編まれた箒は掃き心地も良く
古くなったら座敷から玄関へと下ろして永く使える所も魅力です。
職人技の江戸箒いろいろ
あっという間に今年も残すところわずかとなってしまいました。毎年のことですが、大掃除って大変ですよね。大掃除というと「ふだんできない大がかりな掃除をする日」と考えがちですが、由来は12月10日前後に寺社で行われる「煤払い」のようです。煤払いは、新年の安泰と五穀豊穣を祈り、歳神さま(農耕の神様)をお迎えするために、家中の煤やホコリを払って清める大切な儀式でした。煤やホコリを払うとともに一年の厄を祓い落とす意味もあり「厄を外に掃き出す」「福を集める」というようなシンボル的な役割で活躍していたのが箒です。
最近では掃除道具も昔と変わり、掃除機を使うのが当たり前の時代。あまり見かけなくなってしまった家庭の箒ですが、箒には箒の良さがあり、江戸時代から続く白木屋傳兵衛では、今も箒職人が一本一本丁寧に編み上げ、箒を作っています。
江戸時代から変わらない箒
白木屋傳兵衛は、天保元年(1830)から続く老舗の箒屋さん。江戸中期頃から一般的に普及し始めた座敷箒を「江戸箒」と名付けて作り始めた元祖なんです。
東京の京橋にあるお店には、箒が所狭しと掛けられ、懐かしいような、ワクワクするような不思議と箒に惹かれる感覚があります。店長の高野さんに箒の魅力や選び方など、お話を伺いました。
「昭和初期には京橋・銀座あたりにもまだ竹業者がたくさんあり、箒屋もいろいろあったんですが、今では江戸箒を作っているのは私たちだけになってしまいました。江戸箒の形は江戸時代から変わらず受け継がれています。」と高野さん。
江戸箒の一番の特徴は「軽さ」。箒の材料となるホウキモロシという草を職人が選別し、20等級まで分けた中のコシがあって柔らかい草だけを使って作られます。コシがあって柔らかいという表現は矛盾しているようですが、釣り竿を思い浮かべてみると納得です。すごくしなるのに折れず、バネのように元に戻る感じです。だからゴミをサッサッと掃き出せて、畳やフローリング、カーペットや絨毯にも使えるんですね。
昔ながらの作り方が今も受け継がれています
シンプルな江戸箒
昔はそれぞれの地域で農閑期などに箒が作られていて、地域によっては装飾が施された箒もあります。しかし、江戸箒はとってもシンプルに編まれています。
「江戸っ子は合理的だから装飾をするよりは1本でも多く作って、その分安く提供できればという考え方です。だから江戸箒はとてもシンプル。でもシンプルだからこそ良さが引き立つんだと思います。」
やさしい掃除道具
高野さんは、箒は環境にも人にもやさしい掃除道具だと語ります。
「箒の材料は、太陽と土と水だけで作られるんです。材料のホウキモロコシという草を農家さんが栽培して刈り取って、干した後、職人が選別して紐で編み上げる。捨てるときも自然の材料なので、環境に負荷をかけないことがすごいと思います。
それに掃除機を使う時は「これから掃除をするから、みんなどいて」という感じで、他の人も掃除に巻き込まれちゃう。だけど箒の場合は、例えば子どもが本を読んでいても音が静かだから邪魔になりません。排気でホコリを舞い上げることもないし、電気も使わない。汚れた部分だけサッと掃けるのもいいです。」
現代の掃除の矛盾
一昔前は掃除といえば、てぬぐいを被ってはたきでホコリを落とし、箒で床を掃いて雑巾がけが普通でした。今の私たちは掃除機を使い、粘着ローラーで細かいゴミを取り、使い捨てシートのモップで床を拭く。あれ? ちょっと考えてみると、ゴミを取るためのテープがゴミになり、床を拭いたモップのシートもゴミに…。掃除機も壊れてしまったら粗大ゴミ。「掃除をするためにゴミを増やしている」そんな矛盾を感じてしまいます。
毎日の掃除だから、シンプルに気持ちよく使える道具が良いですね。
どんな箒を選んだらいいの?
白木屋傳兵衛で扱う箒の種類は大小合わせて50〜60種類。
「大まかに用途別の作り分けはしていますが、使いやすいように使っていただいて問題ありません。あとは、どんな住環境で使うかがポイントです。」と高野さん。
畳の部屋が多い家なら、掃き出す力がある江戸箒。フローリングがほとんどなら柔らかいヤシ科の樹皮で作られた棕櫚箒。絨毯やカーペットにも使いたいなら江戸箒。掃除機も併用するなら、小回りのきく柄の短い手箒。掃除は箒だけで、という方なら疲れにくい長柄の箒。とひと言で箒といってもさまざまです。そして自分の使いたい道具を選ぶ時間もまた楽しいものです。
江戸箒のこれから
年を追う毎に箒職人の数が減ってきているのが現状です。江戸箒は熟練の職人で1日に3〜5本しか作ることができません。使い心地が良くシンプルで美しい箒。手入れをしながら大切に使えば10年以上も使える道具です。日本に昔からある職人の技術を守っていきたいですね。
和包丁のある暮らし
スーパーやホームセンターなどでも包丁は売っていますが
包丁屋さんの包丁と何が違うのでしょう。
それは、昔ながらの刀鍛冶が鉄を叩いて刀を作包丁鍛冶が作っている物
と量産されている物の違いです。
一本一本、職人が手塩にかけて鍛造した包丁は、本当に良く切れる!
そして大切に扱えば20年、30年使えます。
ちょっと手入れは必要だけれど、包丁の刃が細く小さくなるまで
大切に使いたい道具になるはずです。
家庭でよく使われる包丁いろいろ
毎日の料理で何気なく使っている包丁。料理人や相当こだわりのある人でない限り、家庭で使う包丁は「そこそこ切れる物」で「錆びない物」が多いのではないでしょうか。
スーパーやホームセンター、量販店などで売られている千円台から数千円の包丁はその代表のようなもの。ステンレス製だから洗いっぱなしでも錆びないし、切れなくなったら簡易研ぎ器でサッと研げば、ある程度復活するので本当に便利です。多くの家庭の包丁はこのように使われていて、何の問題もありません。
しかし、百円ショップなど激安で販売されている包丁の中には、すぐに切れなくなってしまう物もあります。安いからまたすぐに買い直せばいいと思うかもしれませんが、包丁の刃は全体のほんの一部分です。それがダメになってしまっただけで包丁全部を捨てなければならないのは、もったいないと思いませんか?
高価な包丁と安い包丁の違い
日本の伝統文化である日本刀。包丁はその日本刀を造っていた刀鍛冶の職人が形を変えて今もなお造り続けている伝統技術でもあるのです。
横浜市伊勢佐木町で大正4年から続く包丁屋の老舗、菊秀の井上社長にお話を伺いました。
「鉄粉が舞う灼熱の炉の前で包丁鍛冶は鉄を叩きながら一本一本包丁を鍛造します。まさに鉄を粘り強く硬く鍛える作業です。材料も高価なため、鋭く永く切れ味が保てます。一方、量販店などの包丁は機械でステンレス板を型抜きし、刃先を削って大量生産されます。良い材料を使った一点物とでは値段が違って当たり前。良い物とは時代が変わっても価値が変わらない物なんです。」
確かに、良い包丁は普通に使っても10年は持つ。大事に使えば20年以上使える。何度も研いで最後はペティナイフみたいに細くなります。最初はちょっと高価かもしれないけれど、良く切れる包丁が20年も使えるなんて、切れなくなったら捨てるよりずっといいと思いませんか。
地域に根ざし愛され続ける包丁屋さん
鋼とステンレス
包丁には、大きく分けて鋼製とステンレス製があります。鋼はものすごく切れ味は良いが錆びやすい。ステンレスは鋼より切れ味は劣るが錆びにくい特長があります。
包丁屋さんが扱うステンレス包丁は、量販店の物とは硬度が違い、最近では板前さんも使う人が増えているそうです。
包丁ってどう選ぶの?
包丁とひと口に言っても、様々な種類があります。特に和包丁は用途に合わせて使い分けるという日本人の芸の細かさが見られます。しかし、家庭で使うのに何本も使い分ける人はそういません。できれば一本で何でも済ませられればと思いますよね。そこで目安にするのがご家庭の食卓です。
食文化と包丁の変化
戦前、日本の家庭の食卓は、野菜料理がほとんどで包丁といえば野菜専用の菜切包丁を指しました。たまたま釣り好きの亭主がいる家では、魚をさばくための出刃包丁が別にあるといった風景が一般的です。戦後、様々な食文化が入ってくるにつれ、肉や魚は食卓の常連となっていきます。そうなると野菜専用の菜切包丁では不便なため、肉も魚も野菜も切れる三徳包丁(文化包丁)が生み出され主流となります。
そのように自分の家の食卓を当てはめながら包丁を選んでみると、野菜料理が多い家では、昔ながらの菜切包丁と肉や魚を切るための出刃包丁があれば快適かもしれません。肉も魚も野菜も同じように使うという家では、三徳包丁が便利ですね。魚を捌く人には刃の厚い出刃包丁は欠かせません。薄刃の包丁で魚を捌いたら骨で刃が欠けてしまいます。
それから、ちょっとした剥き物や大きい包丁を使うまでもないときに便利なのがペティナイフです。
あとは好みですが、三徳包丁より刃幅が狭く刃渡りが長い洋包丁の牛刀も家庭用ではよく使われます。
錆びやすい鋼は面倒そう・・・
「一度鋼の切れる包丁を使ったらもうステンレスには戻れないよ。」と菊秀の井上社長はおっしゃいます。でも手入れが難しいのでは?と伺うと「乾いた布巾やタオルで水気をちゃんと拭くこと。そしてよく乾かすこと。それだけです。簡単ですよ。」と教えていただきました。
そして鋼の包丁は本当に良く切れます。菜切包丁は、昔の日本の台所の「トントントントン…」という小気味よい音を立てて、野菜を切るのが楽しくなるほど良く切れます。
包丁に愛着はありますか?
「ここ数年、柄の修理や研ぎが増えているんです。20年30年使い続けてボロボロなんだけど愛着があるから直してほしいっていうお客さんも珍しくありません。」と井上社長。他にも定期的に包丁を研ぎに持って来られるお客さんが増えたり「良く切れるようになったよ。」と声をかけてもらったり、愛着を持って使ってもらえる事が嬉しいと語ります。
錆びないように気を遣うけれど、使うほどに馴染んで愛着が湧く。どんどん自分だけの道具になっていく。さぁ、次に包丁を買うときは、少し良い包丁を選んでみませんか?
竹ざる・竹かごのある暮らし
プラスチックや金属のざるでも十分で困ることはないのだけれど、
昔から使われてきた竹ざるや竹かごは、一つの用途だけじゃなく、何通りもの使い方ができます。
そして、キッチンや食卓にあるだけで、ホッと和むような空間を作ってくれます。
量産品にはない、手仕事の美しい形、受け継がれる職人さんの技術を残していきたいですね。
いろいろな形の竹ざると竹かご
日本独特の文化のひとつとして、竹細工があります。日本各地に竹を編む職人さんがいて、昔は竹ざるや竹かごは家庭で普通に使われる物でした。水切れが良く、しなやかで何にでも使える万能な竹ざるは、料理には欠かせないものです。同じく竹かごも農作業用や山菜採り用、果物を収穫するためのかご、海辺の町の貝や海苔を捕るかごなど地域によって形や用途は違うけれど、使い勝手が良く暮らしに必要なものでした。
今では竹細工はプラスチックや金属製品に替わり、竹ざる竹かごを家庭で見ることは少なくなりました。中でも日本の職人さんが丁寧に編んだざるやかごは、益々数を減らしています。そして、日本の竹細工職人さんもどんどん減ってきています。
竹細工のおじちゃん
神奈川県川崎市に数ヶ月前まであった竹細工屋さん。話し好きなおじちゃんがお店でざるやかごを編んでいました。店先にあるバス停の竹製の椅子も、おじちゃんが作られたものだものだということを後で知りました。竹細工の取材でお伺いした時には、もうお店は無くなっていました。80年続いたお店は、後継者も無くひっそりと幕を閉じたのです。
日本の昔ながらの道具である『竹ざる』『竹かご』の職人さんがいなくなることは「何か大事なものを失いかけている。」と感じずにはいられない出来事でした。
竹細工を作り続ける職人さん
外国製と日本の竹細工
今、手近に手に入る竹ざるや竹かごの多くは外国製です。外国製が悪いとは言いませんが、丈夫にしっかり編まれた日本のざるやかごには、素朴な上に懐かしい美しさがあります。キッチンやテーブルにポンと置いてあるだけで、その空間が柔らかく和むのは、きっと昔から日本にある故郷の面影と手作りの温かさが感じられるからでしょう。
日本製のざるは壊れにくい
今回の取材では、鎌倉の『もやい工芸』のオーナーであり日本民藝協会常任理事の久野恵一さんと千葉の南房総で竹細工を作り続けている宮田弘さん、仙台の職人さんで川崎大師に竹細工を販売に来ている下山康子さんにお話を伺いました。
外国製と日本製のざるの違いは、どこにあるのでしょう? まず言えることは「外国製は壊れやすい」こと。安価で気軽に買えるけれど、すぐに底が抜けたり、竹が割れてバラバラに壊れたりするそうです。それはなぜか? 日本の竹と極東アジアの竹(バンブー)とは性質が異なり、弾力性が全く違うからです。同じような形のざるでも「似て非なるもの」が出来上がります。
仙台の下山さんは、「うちのざるは踏んでも元に戻るよ! 弾力があるから割れたりしないから!」と実際、足で踏んだり手でへこませて元に戻るのを見せてくれました。竹がこんなにしなやかだったとは驚きました。そして、日本の竹ざるも消耗品ではあるけれど、大切にきちんと扱えば、何年も、はたまた十年以上も使い続けられるそうです。
外国製品との見分け方
外国製と日本製のざるの「見分け方」については、なかなか明確な答えを見つけられませんでした。パッと見て分かるものに関しては、竹の表皮が付いている「ひご」で編まれているか。竹の皮が付いていないと弾力性も耐久性も少なく、乾いて割れやすくなるのだそうです。
もう一つの目安を「もやい工藝」の久野さんは「竹ざるや竹かごの値段の違い」と言います。それは日本の職人さんの編む技術と、編む前までの目に見えない下準備に相当な労力と時間がかかっているからです。
南房総の宮田さんに「一日に何個くらい作れるのですか?」と伺ったところ「一日何個作れるとは言えない仕事だな。」と語ります。その理由は、編む前の下準備にまず竹を洗い均等に割ることから始まります。「5メートルの竹をまっすぐに均等に割るだけでも大変なんだよ。」と教えてくれました。そして、割った竹を編むための「ひご」にするまでも何工程もあり、それだけで何日もかかるので、一概に一日に何個作れるとは言えません。人件費の問題もありますが、大量生産品との価格差がここに生まれるのです。
竹ざる、竹かごの使い方
竹ざるにはいろいろな形があり、様々な使い方ができます。最も一般的な『盆ざる』の使い方は、野菜の水切り、麺類や天ぷらなどの盛ざるとして。梅干しやドライトマトなどの干し物用に。調理の下ごしらえに。例えば魚に塩を振って置いておくと適度に水分が落ちるので美味しい塩焼きができます。竹ざるは、さっと水が切れ、抗菌性もあり、幾通りもの役をこなしてくれます。
宮田さんは「竹かごは、使う人が何に使いたいか役目を決めればいい。」と語ります。洗った後の食器を伏せておく茶碗かごだったり、風通しがいいから野菜入れにしたり。現代風だとマガジンラックやスリッパ入れ、寝具を入れたり洗濯かごとして、使い方はいろいろです。
愛着を持って丁寧に使い続けると、竹は飴色に艶やかに変わっていきます。壊れやすい消耗品よりも、しなやかで丈夫な日本の道具を使いながら育ててみるのも素敵ですね。
手ぬぐいのある暮らし
今、染め屋の職人さんが手染めをしている手ぬぐいは、年を重ねるごとに少なくなってきています。
そんななか最近では、いたるところで素敵な柄の手ぬぐいを目にすることが多くなりました。
日本で昔から使われてきた手ぬぐいを『今』使う人が増えていることが、なんだかすごくうれしい!
そして、使ってみれば「こんなにいろんな使い道があったんだ!」とびっくりするはずです。
手ぬぐい、いろいろ
昔から私たちの生活の身近にある手ぬぐいですが、今となっては「毎日手ぬぐいを使う」ことはなくなりました。でも、みなさんのお家にも何枚か眠っている手ぬぐいがあるのではないでしょうか。
実はこの『手ぬぐい』、昔から生活の必需品として使われてきているだけあって、すごい実用性を持っているんです!
「手ぬぐいは持っているけど、しまいっぱなしだな…。」「どうやって使ったらいいの?」という方に、ぜひ試していただきたい『手ぬぐい』の良いところ、使い方をご紹介します。
手ぬぐい最大の特長
『手ぬぐい』というくらいなので、濡れた手を拭いてみるとわかるのですが、吸水力がすごいんです。お風呂上がりの体を拭いてみると、さぁびっくり!気持ちいいほど水滴が手ぬぐいに吸い取られて濡れた体はスッキリ爽快。この拭き心地は、タオルでは味わえないさっぱり感があります。
そして、もうひとつのポイントは、端が切りっぱなしになっていること。端が縫ってあると、干したときに縫い目に水分が溜まって乾きにくくなります。乾きが遅いと雑菌が繁殖したりするので、手ぬぐいは早く乾いて清潔に保てるのです。
昔の手ぬぐい事情
東京銀座、歌舞伎座のはす向かいにある老舗手ぬぐい店『銀座 大野屋』の梅澤道代社長に昔の手ぬぐいの使われ方を伺いました。
「幅約33〜35センチの長さ90センチ。これが手ぬぐいのカタチ。江戸時代に普及したと言われる手ぬぐいがこの長さに落ち着いた理由は、長い間人々が使ってきた中で、3尺(約90センチ)が、被るにも長すぎず、腰にぶら下げるにも短すぎないちょうど良い長さだったから。
江戸時代になると綿が普及し、それまで高級品だった手ぬぐいも庶民が使えるようになりました。はじめのうちは、家族で一枚の手ぬぐいを使い回すくらい貴重で、顔拭きや手拭き、銭湯で体を洗い、絞って拭く、茶碗も拭くし、あらゆる生活に使われていたんですよ。今のように一人で何本も手ぬぐいを使うなんて考えられない時代だったんです。」
江戸庶民の娯楽であった歌舞伎。その歌舞伎役者である市川団十郎が舞台で『かまわぬ柄』を用い、その後大流行したそうです。『鎌(かま)・○(輪)・ぬ』と書いて『かまわぬ』。粋と洒落を好んだその時代の人々にとって、手ぬぐいは実用性とお洒落を兼ね備えた道具だったのです。
昔も今も変わらずにある手ぬぐい
ハンカチとして
一見、一枚の布切れで頼りなさげな手ぬぐいですが、一度使ってみるとその使い心地に驚きます。まずは、ハンカチ代わりに使ってみてください。ハンドタオルくらいの大きさですが、折りたためばハンカチサイズになるので、かさばりません。ハンカチの場合、2〜3回使うとかなり濡れてしまいますが、手ぬぐいならほとんど気にならないですよ。
これからの季節に最適
手ぬぐいの吸水力を実感したら、バスタオル代わりに使ってみるのもおすすめです。水滴がスッキリ取れるうえ、洗濯物もかさばりません!ユウウツな梅雨時には、普段使っているタオルを手ぬぐいに替えるだけで、だいぶ洗濯物が減って家事がラクになりますよ。
基本的には、拭くことがメインですが、アイデア次第で何にでも使えるのが手ぬぐいの良い所。半分に折ってランチョンマットにしたり、濡らした手ぬぐいをビニール袋に入れて持って行けば、屋外での食事の時に便利です。
アウトドアでも手ぬぐいは大活躍。腰に下げて、川遊びで足が濡れたらさっと拭いたり、海では、タオル地のように目地に砂が入り込んだりしないので扱いやすく、干しておけばすぐに乾きます。
ちょっとひと工夫
『かまわぬ柄』が社名の由来である手ぬぐい専門店『かまわぬ』の飯田さんにひと工夫を伺いました。
「手ぬぐいを半分または3分の1に切るとお客様用のおしぼりにぴったりです。夏場は冷凍庫で凍らせるとひんやりして気持ちいいですよ。
他には、ペットボトルの水滴よけに包んだり、2カ所縫うだけで簡単にあずま袋もできます。あずま袋は、小物を入れたり、バッグの中に入れて使うインナーバッグとしても便利です。手縫いで作れば、必要のない時にほどいて別の使い方もできます。」と教えていただきました。
手ぬぐいの一生
使えば使うほど、ふんわり柔らかくなり、くたっとくたびれて良い味わいが出てくる手ぬぐい。最初はハンカチとして、首に巻いてスカーフ代わりにも。くたびれてきたら、台ふきやキッチン用フキンとして。そして最後は雑巾として、手ぬぐいの一生はとっても長いんです。
手ぬぐいは、色柄から季節の移り変わりを実感できたり、選ぶ楽しみも生まれます。
日本特有の四季と昔から変わらぬ職人さんの手染めで作られた手ぬぐいで暮らす日々は、時代を越えて今の私たちにも新鮮に映ります。
琺瑯(ほうろう)のある暮らし
「繰り返し使える」「丈夫で丁寧な造り」職人さんの知恵と技術は、古くから受け継がれてきました。
そして現在、「使いやすい」という工夫もプラスされ、琺瑯が見直されてきています。
琺瑯製品が懐かしくどこか温かみを感じるのは、幼い頃から目にしているものだから。
そして、職人さんが一つひとつ心を込めて作られたものだから。製品を通じてぬくもりが感じられるのかもしれません。
見直されつつある琺瑯(ほうろう)製品
みなさん、琺瑯(ほうろう)ってご存じですか?
病院や保健室にあった洗面器で思いだされる方も多いのでは。カラフルな色のつるっとしたお鍋ややかんなどの調理道具に使われています。
手に持った時の重量感とやさしい手触りが、懐かしさや心地よさを引き出してくれますよね。最近では、雑貨屋さんでもよく見かけ、おしゃれな容器などが揃っていて琺瑯製品にはいろんな顔があるようです。
琺瑯の歴史
琺瑯の発祥には、いろいろな説がありますが、エジプトのツタンカーメン王のマスクがはじまりと言われています。なんと琺瑯の歴史は紀元前からあったのです!
昔は金や銀を加工して作る七宝焼の装飾品が主なものでした。(七宝とは、金属の中でも特に金銀や銅を下地にしてつくられた装飾、美術品として使われるものをいいます。)
琺瑯が実用品として使われるようになったのは比較的新しく明治になってからのことです。当時は、洗面器、ボールなどが主力でした。現在は、次々と新製品がつくられ、品質も格段に進歩しました。鉄を生地にした鉄板琺瑯が主流になっており、鍋やケトルなどはもとより、タンク、理化学用品、医療器具など、生活や産業のいろんな分野で琺瑯が使われています。
琺瑯製品のできるまで
琺瑯製品は、沢山の道具や材料、そして精密な機械を使い、長年の経験から培った職人さんの手作業で作られています。決して機械でポンポンできる工業製品ではありません。
一見、つるっと無機質な感じのする琺瑯ですが、よ〜く見てみると釉薬の掛かり方が微妙に違ったり、小さな点があったり、焼き付けの時に吊り具に引っかけて吊した跡が残っていたりとその表情は本当に豊かです。そして、製法が土から作る焼き物の器と同じように炉で焼成されて作られていたのは驚きです。
鉄板の生地に、ガラス質の釉薬をかけ、850℃で焼成され、一つ一つ職人の手作業で作られています。琺瑯製品を見て、鉄とガラスでできているのに「何故だか温かいぬくもりを感じる」のは、出来上がるまで数多くの工程において職人さんの手による細やかな愛情がこもっているからでしょう。
琺瑯(ほうろう)ができるまで
琺瑯の特長
金属の強いけど錆やすい性質と、ガラスの美しいけど壊れやすい性質を結合させて、強くて美しい二つの長所をあわせもつのが琺瑯です。
表面がガラス質なので傷が付きにくく雑菌の繁殖も防ぎ、とても衛生的です。ニオイも付きにくく、酢や塩分にも強く、内容物を変化させないという特長があります。
ガラス質のため強い衝撃や落下などで表面が割れたりヒビが入ることがあります。そして空焚き、電子レンジはNG。金属タワシ、磨き粉は表面を傷つけるので使えませんが、布巾やスポンジで簡単にきれいになります。
琺瑯にしかない特長を楽しんで、大切に扱えば、何十年も使い続けることができます。
画期的な保存容器
プラスチックや色々な材質の素材の物が出て、衰退したかに見えた琺瑯製品ですが、最近またにわかに人気がでてきました。
その火付け役とも言えるのが野田琺瑯さんが作った『ホワイトシリーズ』。琺瑯屋さんに嫁いだ野田善子さんが主婦の目線から使い勝手の良い琺瑯保存容器を開発・改良しました。『保存容器』なのに、フタを外せば(シール蓋の場合)弱火にかけられ、オーブンにも使えて、下ごしらえ・調理・保存と3つの使い方ができるシリーズです。
野田善子さんの思い
野田さんにお聞きしました。
「食べることは『身体を作る基本で、健康のすべて』だと思うの。お母さんが作った家庭料理を食べると身も心も満たされ、安らいだ気持ちになれる。一番大事な『家庭料理』を忙しいお母さんたちが作るのに便利だったり、使って気持ちが良かったり、少しでもお役に立てたら嬉しいと思っています。」
ご自身も二人の息子さんの母として、仕事のかたわら毎日の料理も欠かさず作り、その中で「自分が使いたい。自分が欲しい。」と思ってできた製品が今では、『みんなの使いたい琺瑯製品』になりました。
一石三鳥の琺瑯容器
野田さん流の使い方です。
「例えば小松菜は、まず一束洗って茎・葉・中心の茎に分けて琺瑯容器に入れます。毎日完璧にこなすのは無理ですよね。それより、いかに要領よく下ごしらえをたくさん用意しておくかがポイント。あとは毎日保存してある材料を使って茹でたり炒めたりするだけだから簡単です。」
「それから、出汁を作って琺瑯容器で冷凍しておけば、時間のない時など弱火にかけて溶かして使います。疲れている時なら温めたスープを飲むだけでも、ほっとしますよ。」
今からでも実践したくなるアイデア満載です。暮らしにも琺瑯を取り入れてみて、生活をもう少し豊にしてみてはいかがでしょう。
木の匙(さじ)・スプーンのある暮らし
私たちの生活はとても便利で、いろんな物があって、今の暮らしのままでも十分満足。
だけれど、人の手で丁寧に作られる道具や古くから日本で使われているものには、量産品にはない良さがあります。
大切に、育てるようにずっと使う、そんな道具は、心や暮らしを豊かにしてくれるかもしれません。
心や暮らしがうるおう、そんな暮らしをはじめてみませんか?
あなたのお気に入りのスプーンは? と聞かれたなら「わたしはいつもアレばかり使っているな」とか「そういえばあのスプーンはお気に入りかも」なんて考える方は、案外多いのではないでしょうか。あなたにもいくつかお気に入りのスプーンがありますか?
スプーンって実は、すごく好みが分かれる個人的な道具。口の大きさや歯の形などがみんな違うから、使いやすいと思う形もみんな違って当たり前。そう気づかされたのが木の匙、木のスプーンとの出会いでした。
スプーンを「育てる」
木のスプーンといっても、木工作家さんがひとつひとつ木材から手作業で削りだして作っているスプーンから機械で大量に削られるスプーン、輸入されてくるスプーンなど、製造方法は様々です。表面がつるつるだったり、削り跡があったり、ざらっとしていたり。それによってスプーンの使い心地や持ち味も変わってきます。
では、木のスプーンの良い点ってどんなところでしょう。まずあげられるのが、口当たりがやさしいこと。そして食器に当たってもカチャカチャとした音が気にならないこと。食器を傷つけないこと。木の特性で、熱が伝わりにくいから、あつあつのものが食べやすいこと。金属に比べて軽いから、子どもやお年寄りにも無理なく持てること。使っていくうちに、木の表情が変わって味が出てくることなどがあります。特に木工作家さんが制作したスプーンの場合、削った状態に塗装ではなく、オイルや蜜ろうをすり込んで仕上げてあったり、漆を塗って仕上げることも多く、長く使っていくうちに味わいが出てくるスプーンが多いようです。日々の暮らしの中で「あ、私のスプーンがだんだんいい色になってきたな」「育ってたな」と感じることも楽しみのひとつになるでしょう。
匙が生まれる場所
匙屋の匙
匙を作っているから屋号は「匙屋」。という直球のネーミングが素敵な匙屋さん。お店の二階にある工房では、匙屋こと、さかいあつしさんが匙を一本一本手作業で削り、制作しています。その工房を見せていただくと、いろんな木材が所狭しと並び、木の濃い香りが漂っています。匙屋定番の『実から出た匙』と赤ちゃん用の『初めての匙』の制作途中。ユニークな名前の『実から出た匙』の由来をうかがうと、匙には食べられる実をつける木だけを使っているからというこだわりがありました。『初めての匙』は、スプーンの頭部分が小さく作られていて、離乳食から使える、まさに赤ちゃんにとっては、人生初めてとなる記念の匙となります。
匙の好みは十人十色
「匙に関しては本当に人それぞれ好みがあって、軽くて良いという方がいたり軽すぎて物足りないという方もいたり、口元(スプーンの頭部分)が深めがいい、浅い方が良い、厚みは薄い方がいい、ぽってりしているのがいい、など本当に様々ですよね。」とさかいさん。「匙屋の匙に限らず、いろんな匙を使ってみて、自分に合う形を見つけてほしい。匙屋はそのきっかけの一歩になれればうれしいです。」と語るのは匙屋の店長でもある奥様のかよさん。
匙・スプーンの手入れ
木の匙やスプーンを長く使うためには、手入れが必要です。木は、熱や水分によって割れたり歪んだり、反ったりすることがあるので、直射日光に当てたり、水に浸けっぱなしにしないこと。白木にくるみオイルなどを塗って仕上げてあるスプーンの場合は、ツヤがなくなってきたら、オリーブオイルやくるみオイルなど植物性のオイルをすり込むように塗って風通しの良い日陰で乾燥させます。また、表面のけば立ちが目立つ場合は、目の細かいサンドペーパーで磨いてからオイルを塗ります。
匙屋さんの匙のように拭き漆仕上げなどで漆が塗ってある場合は、特に手入れはいりません。漆仕上げのものは、使ううちにツヤが出てきます。その後だんだん摩耗してくるので、制作した作家さんか購入店に相談すると塗り直しをしてくれる可能性が高いです。
匙の里帰り
匙屋さんでは『匙の里帰り』と名付けて、すり減ってしまった匙や小さい子がかじって歯形のついた匙、時には勢い余ってポッキリ折れてしまった匙などの修理や漆の塗り直しも行っています。
手間と時間を楽しみながら、のんびりマイ匙・マイスプーンを育てていくことも、心や暮らしのうるおいに繋がっていくはずです。
暖かい部屋で
これから寒くなる季節。床暖房やガスファンヒーターなどで寒さ対策をしながら、暖かい部屋で、木の匙・スプーンでスープなどいただいてみては、いかがでしょう。木のぬくもりと温かな質感にほっこりしますよ。
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